乗り物

人の手が及ばない深海に潜んで通信の傍受・妨害・改ざんを行う最新の「ハッキング潜水艦」の存在とは

By Bill Morrow

アメリカでは大統領候補のドナルド・トランプ氏がロシアに対してヒラリー・クリントン候補のメールをハッキングするよう希望するという実に強烈な「ジョーク」が飛び出したことが話題になりましたが、実際に、アメリカとロシア、そしてそれ以外の国々の間では熾烈なスパイ合戦が繰り広げられています。そんな中で、潜水艦は海底ケーブルの信号を傍受する「サイバースパイ」としての任務を与えられ、密かに活躍しているそうです。

America uses stealthy submarines to hack other countries’ systems - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/news/the-switch/wp/2016/07/29/america-is-hacking-other-countries-with-stealthy-submarines/

軍事活動に導入される装備品や車両・航空機・船舶は秘密のベールに守られる部分が多く、その性能を一般人が全て把握することは不可能ですが、とりわけ一年の大部分を海の中に潜って任務にあたる潜水艦は特に秘密に包まれた船舶といえます。地上や空中、海上で姿を確認できるものとは異なり、人の目はおろか、レーダーなどの探査装置でも把握が難しい深海に潜り、人知れず任務にあたる潜水艦は「サイレント・サービス」とも呼ばれ、その特性を活かした高度な任務が与えられていると言われています。

そんな潜水艦が担当する任務の1つが、さまざまな手段を用いて世界中の海底をはい回る海底ケーブルの通信傍受や妨害(ジャミング)、そして通信内容の改ざんを行うスパイ活動です。この活動は1970年代から行われており、アメリカ軍はオホーツク海に配置されたソビエトの海底ケーブルを盗聴する作戦「アイヴィー・ベル」を実施していました。当時は「海底ケーブル経由の通信内容は盗聴されうる」という考えが一般的ではなかったため、アメリカはこの作戦で非常に重要な情報を次々と手に入れていました。

By Global Marine Photos

その際には、記録用のテープを内蔵した専用の盗聴器が仕掛けられ、ケーブルから漏れ出す微弱な電磁波を記録して解析することで機密情報を得ていました。しかし近年は電気信号の代わりに光ファイバーによる通信が行われるなど、盗聴に求められる技術は高度化が進んでいます。しかし、かつてアメリカ国家安全保障局の相談役を務めたスチュワート・ベイカー氏が「今の世の中でインターネットから完全に切り離されているのは、セキュリティを非常に気にするごく一部の者だけです」と語るように、ほとんど全ての情報がインターネットを経由する時代において、海底ケーブルの通信を盗聴することは非常に重要なスパイ活動の要とも言えます。

アメリカ海軍に所属するロサンゼルス級原子力潜水艦「アナポリス」は、そんな任務にあたる潜水艦の1つです。2013年に発生したエドワード・スノーデン氏によるリーク情報からは、海軍が「computer network exploitations(コンピューター・ネットワーク搾取」と呼ばれる作戦を実行しており、そこで多く活用されたのがアナポリスのような潜水艦を活用した盗聴任務だったことが明らかになっています。

ジャーナリストのウィリアム・アーキン氏とアダム・ワインスタイン氏は「アナポリスとその姉妹艦は、現代のサイバー戦争における潜入部隊です。敵の防御地帯に入り込み、通信の妨害や撹乱、操作やハッキングを行います。これらの活動は艦隊に取り付けられたアンテナを使って実施されています。そのいくつかは特別な任務に応じて作られているもので、全てが将来の戦争において重要な役目を果たすブラックボックスです」とブログで示しています

By Maggie Stephens

とはいえ、海底ケーブルの傍受が最新のスパイ活動というわけではありません。近年の潜水艦は、さらに高度なスパイ活動を統括する「母船」としての役割が与えられるようになるとみられています。

潜水艦が身を隠すことが得意だとは言っても、その大きな船体を隠すことにはおのずから限界が存在します。そこで、潜水艦から射出され、敵地の奥深くまで入り込んで諜報活動にあたるのUAV(無人航空機)やUUV(無人水中航走体)といった、いわゆる「ドローン」に類するものよる諜報活動が注目されています。海軍で海中戦争部門を率いているチャールズ・リチャード海軍少将は「我々は船舶のカバーする範囲を広げたいと考えており、UAVとUUVの両方に全力で取り組んでいます」と語っています。


無人機が敵地の奥深くまで入り込み、情報収集と攻撃を行うということになれば、これはもうアフガニスタンなどで米軍が展開している作戦行動とまったく同じことが海の中でも繰り広げられるということになります。しかし、こうした潜水艦部隊の存在について、専門家の多くは「耳にしたことがない」と否定しています。

しかし、ベイカー氏は「スパイ作戦というものは、常に次の一手が存在しているものです。そのため、このような構想が実現している可能性は十分に存在します」と語っています。ロシアに加え、中国からの圧力も高まっているとみられる状況で、アメリカがこのような手法を投入しているということは、十分に考え得ることと言えるようです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
政府の諜報機関がインターネットの海底ケーブルから盗聴している方法 - GIGAZINE

インターネットを支える海底ケーブルを巡る知られざる盗聴戦争とは? - GIGAZINE

海底ケーブルを流れる情報が傍受されて諜報機関に売られていることが判明 - GIGAZINE

MicrosoftとFacebookがタッグを組んで大西洋を横断する光ファイバー海底ケーブルを敷設する - GIGAZINE

秒速60テラビット超爆速光ファイバー海底ケーブル「FASTER」陸揚げ作業現場潜入レポ、アメリカとつながるケーブルの一端や中継局の中はこんな感じ - GIGAZINE

in 乗り物, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.