映画

殺人犯が「マトリックスの世界で起こった」ことを主張し無罪になるケースが存在する

by Álex Quirós

自分の人生はリアリティーショーの一部であり、自分自身の行動はカメラに監視されて人々の見世物になっているという妄想を抱く精神疾患を、1998年に公開された映画「トゥルーマン・ショー」から取って「トゥルーマン症候群」と呼びます。このように現実と虚構の見分けがつかなくなっている人々は実際に報告されており、2000年代から「自分が犯罪を犯したのは仮想現実での出来事である」とする主張「マトリックス・ディフェンス」を行い無罪になった殺人犯が実際に存在します。

Mysterious Murders and The Matrix | Mysterious Universe
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1999年に公開された映画「マトリックス」は、大手ソフトウェア企業に勤めていたプログラマーが、「この世界はコンピューターによって作られた仮想現実だ」ということに気づくことから物語が始まります。世界中で大ヒットを記録したウォシャウスキー姉妹による映画のあらすじは荒唐無稽にも思えますが、実際のところ「人類はコンピューター・シミュレーションの中で生きている」というシミュレーション仮説は多くの研究者が議論するところでもあります。

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一方で、自分が罪を犯した原因が仮想世界にある、と主張する殺人者も多く存在します。2000年にはサンフランシスコ州立大学でコンピューターサイエンス学んでいた27歳の学生Vadim Miesegesが、同級生でありルームメイトだったElla Wongさんを殺害。Wongさんは内臓を抜き取られ皮を剥がれた状態で体を切断され、住んでいた周囲の地域に放棄されていたとのこと。

警察によって発見された時、Miesegesは手にナイフを持ち、薬物を使用した状態で異様な行動を取っていたと言われています。そして警察に対してわけのわからない内容を早口でまくし立てたのちに、自分はマトリックスの仮想現実の世界に住んでいて、Wongさんは現実の人間ではないことを語ったそうです。最終的に裁判官はMiesegesに法的な責任能力がないと宣告し、Miesegesは施設へと収容されました。当時Miesegesと会話したKelly Carroll警部補は「彼は自分がマトリックスの世界に吸い込まれたと語っていました。彼は鏡の世界に入り込んでしまっており、マトリックスは彼にとって現実のものであるかのように見えました」と語っています。

このような事件は1件だけに留まりません。2002年には37歳のTonda Lynn Ansleyが、自身が借りている部屋のオーナーでありマイアミ大学の教授のSherry Lee Corbett氏の頭に数度発砲することで射殺しました。Ansleyも検事に対して「人々が暮らしている世界は現実ではなく、自分はコンピューターシミュレーションの世界に生きている」と語りました。Ansleyは部屋のオーナーであるCorbett氏が自分を洗脳し、シミュレーションの世界でコントロールしようとしていること、夢の中にまで侵略してきて最終的に自分を殺そうと考えていることを主張。Ansleyは「彼らはマトリックスの世界で多くの罪を犯しています。夜、眠った後の世界で彼らはあなたに薬を盛り、どこかに連れていきます。その後、あなたをベッドへと戻すのです。そして目覚めたとき、あなたは『悪い夢を見た』と考えるでしょう」と語っており、Corbett氏の殺害は自己防衛であったとしました。裁判においてもAnsleyは上記の内容を主張し、最終的に精神異常のため無罪となったとのこと。


他方で、2003年に起こった殺人事件においては、マトリックス・ディフェンスが弁護の中で主張されましたが、有罪判決が下りました。この事件で、当時19歳だったJoshua Cookeはショットガンで父親を7回、母親を2回撃って殺害。その後、彼は911に電話して自分の犯行を説明し、警察を待つまでの間、武器を持たずに家の前に立ってソーダを飲んでいたとのこと。警察に捕まった際にも抵抗をせず、穏やかに自分の犯行について語ったそうです。

Cookeは普段から映画の中で登場人物が来ていたようなトレンチコートを着用し、ベッドの周囲にはマトリックスのポスターを貼り、何度も繰り返し映画を見ていました。弁護士はCookeと話す中でCookeが自分はマトリックスの世界に生きていると考えていることに気づきました。しかし、捜査が進むにつれ、Cookeが911に連絡した際に「自分は死刑になる」ということを語っており、正しいことと間違っていることの区別はついていたことが判明しました。そして最終的にCookeは殺人罪で懲役40年を言い渡されました。


犯罪に影響を与えた映画は、マトリックス以外にも存在します。有名なところでは、1976年に公開された映画「タクシードライバー」のジョディ・フォスターに恋をして、同映画のストーリーに影響を受けつつ大統領暗殺未遂を起こしたジョン・ヒンクリーが挙げられます。ヒンクリー側の弁護士は裁判でヒンクリーが現実と空想の区別がついていなかったことを主張し、結果として「精神の病気にかかっており、責任能力がない」としてヒンクリーは無罪になります。ボストンの法科大学院New England School of Lawに所属するDavid Siegel教授は、映画の中に登場する車や、映画から連想するものを犯行で使用しやすかったがために、陪審員がヒンクリーが話す内容を理解しやすく、供述を信じることにつながったと見ています。

人が罪を犯した理由として映画の名前が登場することは少なくありません。暴力的な映画が犯罪者に自分の行いを正当化する根拠や衝動を与えていると見なされることもありますが、一方で、シンシナティ大学のジョン・ケネディ教授は「この世界が代替現実であることの根拠として映画のマトリックスについて言及する精神病の人がいるかもしれませんが、もしマトリックスがこの世にあったら、彼らはCIAやエイリアンなど別のものを見つけたはずです」と語っています。

by Mandias

また、「精神に異常をきたしており正しいことと間違っていることの区別がつかない故に罪を犯した」という弁護は、基本的には失敗することが多く、最終的な成功率は1%ほどだと見られています。さまざまな精神科医を用意しても精神異常の弁護を証明することは非常に難しく、マトリックス・ディフェンスについても、裁判で刑を軽くするための主張としては賢明な選択ではないと考えられています。しかし、映画と現実の区別がつかなくなる「精神異常」という発想は人々を魅了するため、今後、犯罪者によるマトリックス・ディフェンスのような主張が増加しても不思議ではないとのことです。

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in 映画, Posted by darkhorse_log

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