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雷に打たれて生還した人の体験談


アメリカだけで毎年500人の人が雷に打たれ、そのうちの約90%が生還していますが、中には重度の後遺症に悩む人もいます。そんな落雷の生存者の証言や専門家の話を、アウトドアをテーマにした雑誌のOutsideがまとめました。

How to Survive a Lightning Strike - Outside Online
https://www.outsideonline.com/outdoor-adventure/exploration-survival/body-electric/

落雷から生還した1人目の証言者は、 2000年5月8日、当時48歳の株式仲買人だったマイケル・アトリー氏です。この日ゴルフを楽しんでいたアトリー氏でしたが、周囲にいた人が雷鳴に驚いて振り向くと、煙に巻かれながら地面に倒れたアトリー氏の姿が見えました。アトリー氏の靴は脱げて遠くまで吹き飛んでおり、指先は焼け焦げていて、髪はチリチリでした。

Outsideの取材に応えたアトリー氏。

by Ethan Hill / REDUX Pictures

アトリー氏の心肺は停止していましたが、その場にいた元海兵隊員が人工呼吸をしつつ救急隊員を呼んだことで一命を取り留めました。アトリー氏にはその時の記憶はなく、覚えているのは目覚めた時に医療関係者から「あなたは38日前に雷に打たれたんですよ」と告げられたことでした。

アトリー氏と同様に、雷に打たれた人のほとんどは何が起きたか覚えていません。また、肉体的な傷が癒えても慢性的な痛み、記憶障害、性格の変化などの心理的な症状を経験し、感情の起伏が激しくなって家族を混乱させるといった問題がしばしば残ります。


アトリー氏が退院できたのは病院に運び込まれてから5週間後のことでしたが、それからもアトリー氏は何カ月にもわたって食べ物を飲み込んだり、指を動かしたり、歩いたりする練習のリハビリをしなくてはなりませんでした。

記事作成時点で62歳のアトリー氏は、障害保険を頼りに生活しており、株式仲買人としてのキャリアも落雷を境に途絶えました。同氏はOutsideに対して、「私はもう働けません。記憶は焼き尽くされ、以前のようなエネルギーはなく、あっという間に30歳は老けてしまいました。今でも歩いたりゴルフをしたりしますが、立ち止まらずに100ヤード(約91メートル)歩くことはできず、しょっちゅう転びます」と話しました。

また、落雷によってアトリー氏の人格も大きく変容しました。「雷は私を意地悪で乱暴な人でなしにしてしまいました。今の私は短気で、何も楽しめません。私は妻が結婚した男とはもう別の人です」と、妻とは離婚したアトリー氏は話しました。このように、雷はアトリー氏の人生にとって、運よく生き延びた危機一髪の出来事以上のものとなりました。

落雷の問題を複雑にしているのは、雷に打たれた人の体に何が起きるのか、医学的にはほとんど分かっていないということです。物理学の分野では多くの学者が放電現象としての雷の研究に心血を注いでいますが、雷が人体に与える損傷についての研究に専心している医師や研究者は一握りです。

生存者の中には、一時的な失明や難聴を経験する人もいます。耳が聞こえなくなるのは、電気や雷の衝撃で鼓膜が破裂してしまうのが原因です。また、舌に金属の味がしたという人もいるほか、リヒテンベルク図形と呼ばれる松の葉のように枝分かれした模様のあざができるケースもあります。

by James Heilman, MD

落雷のもう1人の生存者は、2010年8月に雷に打たれた、当時46歳のタマラ・パンドルフ=ピアリー氏です。落雷から生還した後、パンドルフ=ピアリー氏はジャガイモの皮むき器といった簡単な道具の使い方すら思い出せなくなり、生まれ故郷の景色さえ忘れてしまいました。また、偏頭痛や倦怠(けんたい)感に悩まされているほか、突然文章が書けなくなったり、人が言っていることが理解できなくなったりするとのこと。さらに、よくめまいがしてバランスを崩してしまうほか、体のいろいろな部分が自分では制御できなくなってしまうこともあります。

パンドルフ=ピアリー氏は「最初はどうして私が、と悩みました。怒りに駆られた時期もありましたし、昔の自分が恋しいかった時期もありました。でも、そうした時期は乗り越えられたと思います。怒りにとらわれてしまうと、残りの人生まで全部台無しになってしまいますからね」と話しました。


平均的な落雷のエネルギーは500メガジュールで、これは250ガロン(約946リットル)の水を一瞬で蒸発させてしまう熱量に相当します。また、大気中を通過する際は空気の温度を太陽の表面の5倍にまで加熱させます。それでも、アメリカでは落雷で亡くなる人が年間平均51人、負傷は500人以上で生還率は約90%と、雷が持つエネルギーを考えると意外なほど死亡率が低いものとなっています。例えば、バージニア州の国立公園で公園監視員を務めたロイ・クリーヴランド・サリヴァンという人物は、1942年から1977年の間に7回雷に打たれましたが、命に別状はありませんでした。

落雷による死亡率がそれほど高くない理由のひとつは、身近な電化製品による感電といった事故と落雷とでは性質が大きく異なる点にあります。もし不注意な電気技師が通電中の活線をつかんでしまった場合、電流により体が動かせなくなって長時間体内を電気が流れ、これにより内臓が焼け焦げてしまいます。一方、落雷はコンセントプラグを流れている電気とは比べものにならないほど強力なエネルギーを帯びていますが、わずか50万分の1秒しか続かないので、皮膚はやけどしても内臓の損傷は起きないことが多いのです。

雷が落ちた樹木が爆発したり炎上したりすることがありますが、これは人体に比べて木の幹は水分が少ないため電気の逃げ場がないのが原因です。とはいえ、人が雷に打たれると体表からの放電で衣服が燃えたり、ベルトのバックルやカギといった金属製の物体が過熱されてやけどを負う危険性があるほか、急激な水蒸気の発生で被害者の靴や靴下が吹き飛ばされることもあります。

イリノイ大学シカゴ校の名誉教授であるメアリー・アン・クーパー氏は、雷が脳に及ぼす影響に真っ正面から取り組んでいる数少ない医師の1人です。そのきっかけは、医師を目指し始めた1970年代に、知人が高電圧の感電事故に遭ったことでした。

クーパー氏の研究テーマである落雷の後遺症に悩まされている生存者の1人に、フィル・ブロスコーヴァク氏がいます。2005年8月、家族や親戚と一緒にキャンプを楽しんでいたブロスコーヴァク氏は、ロッククライミング中に雷に打たれた時の経験を「巨大な光の爆発、頭の中で手りゅう弾が爆発したような音、1000匹のハチが内側から刺すような痛み、体を包み込む青いゼリーのようなプラズマ、操り人形のように勝手にぴくぴく動く足」と振り返りました。

by Ethan Hill / REDUX Pictures

幸いにもロープで宙づりになった状態ですぐに意識を取り戻したので、その時は深刻には考えておらず、病院に行くよう勧めた妻の言葉も聞かなかったブロスコーヴァク氏ですが、翌朝目覚めるとまっすぐ立っていられないほどの苦痛に見舞われました。しかし、最も大きな問題は肉体的な苦痛ではなく、物忘れの症状でした。

落雷を受けて以来、ブロスコーヴァク氏は簡単な事柄すら思い出せなくなり、PCの画面に単語を入力しようとして別の単語をタイピングしてしまったり、自分が入力した内容が理解できなかったりするようになったとのこと。「the」という単語のつづりが思い出せずに泣き崩れたことも一度や二度ではないそうです。また、耳鳴りや不眠症に悩まされ、日常の音にも敏感になりました。こうした状態への歯がゆさからじだんだを踏むような日々が続いたため、ブロスコーヴァク氏も妻と離婚することになったといいます。

そんなブロスコーヴァク氏ですが、症状が安定したおかげで電気技師としてのキャリアを継続しており、趣味のロッククライミングも続けています。しかし、雷の後遺症を医師に話しても真剣に受け止めらず、治療を受けることもできていないため、ブロスコーヴァク氏の回復はあくまで時間の経過によるものです。

こうした落雷の生存者について研究しているクーパー氏によると、後遺症のほとんどは脳や神経系、筋肉の損傷が原因であることが分かってきているとのこと。雷で細胞が完全に破壊されることもありますが、より微細な損傷を残すこともあり、こうした神経回路の混乱が慢性的なさまざまな問題の原因であるとクーパー氏は考えています。

クーパー氏の仮説の根拠となっているのが、脳の血流を調べる磁気共鳴機能画像法(fMRI)を用いた研究です。クーパー氏が行ったこの研究では、落雷被害者と健常者の脳をスキャンして精神テストを行うと脳活動に有意な差が見られることが突き止められました。

しかし、クーパー氏はさらなる研究のめどを立てられていません。なぜなら、医学界や科学界では落雷被害の研究がそれほど重要視されていないからです。そのため、クーパー氏は雷害に対する意識を高めて事故発生を防ぐ啓発活動に力を入れています。

研究者だけでなく落雷から生還した人も、自分の体験を元にした活動をしています。落雷から回復して1年後の2001年6月、アトリー氏は落雷事故の生存者が組織したLightning Strike & Electrical Shock Survivorsの初会合に出席し、アメリカ海洋大気庁の落雷安全啓発週間の立ち上げに協力しました。また、2002年からは落雷被害の防止教育を目的としたサイトであるStruckbylightning.orgを運営したり、学校やボーイスカウトの授業に出張して講義したりといった活動も始めています。

アトリー氏は「最初は、それはもう腹が立ちました。気がついたら歩けないし、食べ物も飲み込めないし、何もできないのですから。一体何が起きたのか、なぜ自分なのか、なぜたった15フィート(約4.5メートル)離れた所に立っていた別の人たちではなかったのか問い続けましたが、きっと理由も意味もないんでしょうね。それは海に向かって叫ぶようなもので、いつも答えは返ってきません」と話しました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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